雌阿寒講座


 様々な分野の方が、雌阿寒についてお話して下さります。





  今回は、ノルウェーからDr.ハリーが雌阿寒の自然について寄稿してくれました。


雌阿寒岳のそばの野中温泉を初めて知ったのは、2001年から2002年にかけて
北大で生態学の研究者として仕事をしていた時でした。
足寄近郊でサンプルを採集し、この温泉に泊まったのです。
私は日本語が読めませんでしたが、ここに妻と当時二歳だった息子を
連れて来たらきっと喜ぶだろうと思ったので、温泉の名前を書き写して帰りました。

2002年の春、家族でこの温泉に来ました。みんなここが大好きになりました。
温泉と火山は勿論、安らぎと静寂、そして手つかずの自然…。
現代の日本では、不適切な開発のみならず自然美を観光資源としたビジネスによってさえも
自然がそこなわれてしまったところが多く、このような自然が保たれているところは稀です。
その後私たちは仕事や里帰りなどで日本に来るたびにこの温泉を訪れました。
今回で四度目、そしてまた来るつもりです。

自然に興味のある人にとっては、ここは格別すばらしいところです。
中心に在るのは、勿論、壮大な火山ですが、それだけではありません。
夜には、街の灯りから遠いので、満天の星空が仰げます。
夏は様々な鳥が繁殖し、その中には、普通もっと北の地方、
シベリアなどで見られるイサカやルリビタキなども含まれます。
火山の噴火口内の崖にアマツバメが巣を作っていますが、
これは世界で最もドラマチックな巣作りの光景でしょう。

その他にもこの地域では様々な発見が期待されます。
例えば、日本では稀なエゾアカマツとトドマツの森林にはキンメフクロウや
ミユビゲラがやって来るかもしれません。
エゾタヌキ、エゾモモンガ、エゾシマリス、ヒグマなどの哺乳類、
そして有名な高山植物も見られます。
冬はオオワシがエゾシカの死骸を探して飛んできます。
クロスカントリースキーにも絶好の場所ではないでしょうか。
(その後で温泉に入れますし…!)

こうしたこと全てにおいて、雌阿寒岳周辺は、
日本においてだけでなく世界的にもユニークな場所であると言えます。
この素晴らしい国立公園の地域に住む人々が、
(米国、カナダ、スカンジナビアなどの国立公園の近くに住む人々と同様に)
その高い価値を尊び、比類なき自然を保護していくことこそが
地域の長期的な経済的発展にもつながることを理解されていることを喜ばしく思います。

 

ダンカン・ハレー、生態学者、ノルウェー自然科学研究所
訳=新 佐智子、ノルウェー科学技術大学講師


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今回は、北海道大学地震火山研究観測センター准教授 高橋先生からの寄稿です。



火山は,我々が地球の鼓動を直接感じることができる数少ない場所のひとつです.
雌阿寒岳は,火山の営みそのものを自然のまま感じ取ることができる貴重な火山です.

火山とは何でしょうか.火山とは,地下深くにあるマグマとよばれる溶けた岩石が
地上に出てくる場所です.
その噴火では1000度にもなる真っ赤な溶岩が花火のように飛び散ることを
見ることができます.その美しさは,オーロラとならんで地球が見せる最大のショーだ,
というひともいるほどです.しかし,このような派手な噴火をするのは非常にまれなこ
とです.火山にも人生があり,その長さは数十万年になります.
人間の一生にくらべれば,まさに悠久な時を火山は生きています.
その意味で,人間の人生の中で噴火に出会えるのは,ある意味貴重なことといえます.

雌阿寒岳は,その名の通り阿寒の山々の中に出来た火山です.その源となるマグマは,
地下150kmという,とてつもない深さからの旅をして雌阿寒岳までたどり着いたものです.
では,なぜそんな深い場所にマグマが出来たのでしょうか.北海道の太平洋岸のおよそ
200km沖合いにある千島海溝からは,太平洋プレートという岩盤が北海道の地下に
年間10cmずつ沈み込んでいます.このプレートの深さは雌阿寒岳の下で150kmにも達します.
そのような深い場所では想像もできないような大きな圧力(押す力)が掛かります.
すると,岩石に含まれている水が搾り出されてしまうのです.これは,スポンジを絞ると
水が出てくることと似ています.この水により岩石が溶けやすくなるため,マグマが発生
するのです.このように,雌阿寒岳のマグマは,遠くはなれた太平洋から沈み込むプレート
がその原因となっています.

いまは穏やかに見える雌阿寒岳も,昔は激しい噴火を繰り返していました.
しかし,それははるか昔の何千年も前のことです.噴火は時に大きな被害を
もたらすこともあります.しかし、北海道の農業を支える豊かな土壌は,
噴火によりもたらされた火山灰のたまものでもあります.
野中温泉を始めとする温泉はまさに火山の恵みそのものです.

自然は時に人間の想像を超えるような猛威を振るいますが,それは自然にとっては
まさに自然なことなのです.雌阿寒岳は,火山とそれをとりまく自然そのものを
直接感じることができる数少ない場所です.

忙しい現代ですが,時にはこの自然の中に見を置いて,ちっぽけな人間のはかなさを
感じてみるのもよいかもしれません.


北海道大学 地震火山研究観測センター 高橋浩晃

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今回は 網走地方気象台防災業務課 火山防災官 佐藤 悦信さんからの寄稿です。




 多くの登山者が訪れる雌阿寒岳は、数万年にもおよぶ火山活動によってつくられた活火山です。
山頂に立つとポンマチネシリや中マチネシリの噴煙や噴気が目の当たりとなり、地球が生きていることを実感します。

 ここ数十年の間、雌阿寒岳は小規模な噴火を繰り返していますが、大昔には何度も大噴火を起こして
火山灰や岩石を噴出し、火砕流や溶岩流、火山泥流が山体を流れ下りました。火山噴火は、
その規模によっては被害をもたらし、私たちの生活に大きな影響を及ぼします。

 気象庁では、火山災害軽減のため、全国110の活火山を対象として噴火警報を発表しています。
噴火警報は、生命に危険を及ぼす火山現象(大きな噴石、火砕流、融雪型火山泥流等、
発生から短時間で火口周辺や居住地域に達し、避難までの時間的猶予がほとんどない現象)
の発生やその拡大が予想される場合に「警戒が必要な範囲(生命に危険を及ぼす範囲)」を明示し、
その名称を、「警戒が必要な範囲」が火口周辺に限られる場合は「噴火警報(火口周辺)」(略称は火口周辺警報)、
居住地域まで及ぶ場合は「噴火警報(居住地域)」として発表します。噴火警報を解除する場合等には「噴火予報」を発表します。

 また噴火警戒レベルは、取るべき防災対応を「レベル1:平常」、「レベル2:火口周辺規制」、「レベル3:入山規制」、
「レベル4:避難準備」、「レベル5:避難」の5段階に区分して、噴火警報・予報で発表します。
雌阿寒岳には、平成20年12月から噴火警戒レベルを導入しています。

 気象台が発表した噴火警報や噴火警戒レベルは、自治体や報道機関などを通じて直ちに住民の皆様に周知されます。
地元の市町村では、必要な防災対応(入山規制、避難勧告等)がとられますので、その指示に従って下さい。
各レベルの具体的な規制範囲等については、地域防災計画等で定められていますので、地元市町村にお問い合わせ下さい。 

 札幌管区気象台では、雌阿寒岳の噴火の前兆を捉えて噴火警報等を的確に発表するために、火口の近くや山体の周辺に地震計、
傾斜計、空振計、GPS観測装置、遠望カメラ等の観測施設を整備し、関係機関(大学等研究機関や北海道)からのデータ提供も受け、
札幌管区気象台火山監視・情報センターにおいて24時間体制で常時監視しています。
 
 このほか、関係機関の協力によるヘリコプターからの上空観測や、計画的に現地調査を実施しています。
これらの観測・監視の結果に基づき、噴火警報及び噴火予報を発表するほか、定期的または必要に応じて
火山活動解説資料などを発表し、火山の活動状況をお知らせしています。

 雌阿寒岳を訪れる際には、気象状況や雌阿寒岳の活動状況を下記の気象庁ホームページで確認して下さい。
また、雌阿寒岳の火山活動の異常現象に気が付いた時は、気象台や自治体まで連絡をお願いします。
    
                                                          連絡先  釧路地hottu方気象台 TEL0154-31-5110
                                                                網走地方気象台 TEL0152-43-4348


【気象庁ホームページアドレス】
 http://www.jma.go.jp/jma/menu/volcanomenu.html

【政府インターネットテレビアドレス:「火山災害から命を守るために〜避難計画を知る大切さ〜」http://nettv.gov-online.go.jp/prg/prg7040.html


                                                                       網走地方気象台防災業務課 火山防災官 佐藤 悦信






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2013.3.20
北海道大学地震火山研究観測センター研究員
大園真子さんから寄稿して頂きました。


雌阿寒の想い出

2011年3月に学生生活を終えて,初めて就職した場所は北海道大学の地震火山研究観測センターでした.
ここで2年間,研究員として過ごしました.

就職して数週間後の4月某日,先生に「雌阿寒に行くぞ」と言われて,麓に連れて行かれたのが私の最初の雌阿寒でした.
その後,観測や実習のお手伝いで頻繁に行くようになり,この2年間で雌阿寒岳に2回,阿寒富士に1回登頂し,
麓には何回訪れたのか覚えていません.毎回見る雌阿寒岳・阿寒富士はいつも雄大で綺麗,写真もたくさん撮りました.

私自身が直接雌阿寒を研究対象としている訳ではないので,専門的な研究の話はさておき,
ここに来て一番おもしろかったことは,「学外の人たちとの交流」でした.
火山のすぐそばに住む方の「もしもの時」に対する考えや,研究者に対する意見を直接聞くことが出来たのは大きな収穫です.

また,何回か参加させていただいた自然塾では,一般の参加者さんたちが実に色々なことに興味を持っていること,
意外とプチ専門知識を持っていることなど,驚かされることも少なくありませんでした.

2013年4月からは北海道を離れて,大学教員になります.雌阿寒での出会いは,
これから学生や一般の方々と接する機会が多くなる自分にとって,視野を広げてくれる,大事な経験でした.
いつか自分の学生を連れて雌阿寒岳に登り,みんなでおいしいビールを飲みたいと思っています.





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 第5回は北海道立総合研究機構 地質研究所 廣瀬先生による
 雌阿寒岳講座の予定です。


 近日公開予定。お待ちください。
 


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